ひとつの部屋で実現する異年齢保育@静岡県の認定こども園1
近年、異年齢保育(縦割り保育)を実施している園は、以前に比べ増えてきているという実感がある。少子化によって兄弟がいるこどもが少なくなり、年齢を超えたこども同士の関わりが減少したことにより、異年齢保育の効果を園に期待する保護者も多い。
乳幼児期は模倣の盛んな時期であり、自分では出来ない、誰かの力を借りて成し遂げるという体験を通して、子どもたちはお互いの関わり方を学び、刺激を受けながら社会性や協調性を身につけていく。
今回は異年齢保育を取り入れている静岡県の認定こども園における設計事例を紹介していく。
さて、この園では3歳児から5歳児の定員66名を3グループにわけ、常時異年齢保育を実施している。年齢別の部屋もグループ別の部屋もなく、3歳児~5歳児の保育室は230平方メートルほどのひとつの部屋である。あらゆるものの見通しがよいこの保育室では、こどもたちは「見る力」を自然と育むことができるという。目から情報を入れて、五感を使って理解し、それが行動につながって成長する。自分と年端の近いこどもの行動を観察したり真似たりすることで成長し、「自己決定力」を育む、そんな保育室にしたいとの考えである。
この園では前述した広い空間があるが、その中に狭い空間、いわゆる「こどもがこもれる空間」(DEN)も点在する。集団で生活する空間も必要だが、遊びやコミュニケーションに集中できる空間も設けた。比較的狭い空間の方がこどもは集中しやすいので、こどもの目線での空間づくりも重要だ。壁に囲まれた4畳弱の空間は、床・壁・天井の材料や色調を広い空間とは異なるものとし、ほのかなあかりを灯すぼんぼりに照らされる事で、落ち着いた「こどもがこもれる空間」となっている。
この空間にはあえて段差を設けている。障害物もこどもの手にかかると最高の遊び場に変わってしまう。それぞれの空間に窓がついており、「おうち」や「部屋」、「秘密基地」として見立てて、こどもたちが自由な発想で独自の世界をつくりあげ、心ゆくまで堪能している。
この空間と空間の間もまた違った顔を持つ「こどもがこもれる空間」となっている。違う種類の空間を複数持つ事で、その時に過ごしたい居場所をこども自身が選び、決める。これは異年齢保育との相乗効果で「自己決定力」の成長を促す目的がある。