階段まわりの工夫【羽村まつの木保育園・大山西町保育園】
建物において、地階や 2 階建て以上になると上下階をつなぐ階段が必ず必要である。
階段は、日常的 に人々が行きかうタテ動線、避難においても重要な役割を担っているが、園舎設計では階段まわりに十α のひと工夫を取り入れることで、違う用途が生まれたり、子どもたちの動線に遊びのひろがりをもたらすスペースとなるため、最も大切な空間のひとつと考える。
今回は、2つの保育園の事例を紹介したい。
まず紹介する東京都羽村市所在 社会福祉法人松栄福祉会 羽村まつの木保育園では、園舎の建て替えの設計段階より、先生から「階段を中心とした園舎にしたい、そこには絵本コーナーや登り棒、またはロープなどを設置して子どもたちが遊べるスペースとし、子どもたちのやりたい事が叶えられる保育園にしたい。」と要望があった。
この保育園では、乳児はハイハイしながら階段を上がり、幼児になると竹登りを保育に取り入れて運動量を確保しており、アクティブな子どもたちが多い。
新園舎設計をゾーニングする段階でキーとなったのは、園庭にあった大きなケヤキの木である。 幹下には砂場があり、枝にはロープが下がり、ここは子どもたちの遊び場所になっていた。園庭にどんと構えているケヤキは、子どもたちを見守っているように見えた。
先生方の要望から、木の幹のまわりにリーフ (保育室) がつらなり、子どもの成長を見守る園舎、建物の中心となる階段をケヤキの木の幹に見立てたブランとなっていき、これを新園舎のコンセプトとした。
この園の特色は、園舎に入ると、玄関のほぼ正面に位置する内部階段を見通せることである。階段の延長上に図書コーナーを設けたため、子どもたちが楽しそうに本を読んでいる姿が真っ先に視界に入る。
保護者が保育園を選ぶ際、第一印象はとても大切である。保護者が保育園を訪れる際、子どもたちが楽しそうに保育園生活を送っている姿を見ると、これから自分の子どもが園で過ごす様子をポジティブにイメージしやすいからである。私たちは設計、つまりデザインやアイディアで、その場面にできる限りの要素を提供する事が何より大事だと考えている。
また、同じ階段でも違った印象を与えることができる。筆者が竣工式で園に訪れた際、この階段をステージに見立て園長先生が獅子舞を披露してくださった。普段はこどもたちが落ち着いて使用している図書コーナーだが、使い方を工夫することで違う用途が生まれる可能性があることを実感した。階段は時に、演出効果により違う空間にもなり得る。
この階段裏下には、子どもたちが集いやすいようオーバル型のエリアをつくり、床との段差を設けることで、ベンチのかわりとなっている。床の段違いやステップ、仕上げ材を変えて意図的にデザインすることで、空間に変化をもたらすことができる。
図書コーナーから階段裏下の集いの場所をつなぐ一部に登り棒を設置し、タテ動線にちょっとした遊びを取り入れた。一方、階段裏は一部天井が低い部分ができるので、大人の目線よりも低く狭い空間は、子どもたちにとっての隠れ家のようでワクワクする空間となる。
階段の中心は 1階から3階まで3層をつなぐ吹き抜けになっており、開放性も加わり、階段という用途だけではなく、既存のケヤキの木と同様に子どもたちをつなぐ園舎のシンボルとなっていると感じる。
階段まわりに様々な仕掛けを施すことにより、保育園で生活する子どもたちの創造性を豊かにしてくれる。尚、既存のケヤキは新しい園庭の真ん中に移植され、いまでも子どもたちを見守り続けている。