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視覚を刺激する工夫【光保育園・安養保育園】

人が情報を取り入れる際、聴覚、嗅覚、味覚など他の感覚と比べると、視覚から取り入れる情報が圧倒的に多いと言われていますが、人は、見えているもの(視界にはいるもの)すべてに常に注意を向けているわけではありません。

それでも、前記の通り視覚に訴えることは、他のどの感覚に訴えるより有効であり、記憶にも残りやすいため、子どもたちに見てほしい、興味を持って見てもらいたいという意図を実現する工夫を行った事例として、今回は埼玉県新座市にある「光保育園」と、兵庫県揖保郡にある幼保連携型認定こども園「安養保育園」をご紹介します。

工夫①(光保育園)光の動きを計算した屋根

上方からの光は、下方にふりそそぐことによって、その印象を強めます。
そのため、古くからトップライトは、大空間や吹き抜けと組み合わされてきました。

例えばゴシック様式の建物、大聖堂の高窓などは、高い天井があるからこそ頭上から光が降り注ぎ、より厳かで神秘的な空間となり、その効果が生きて感じられ、大空間ならではのトップライトの魅力が発揮されます。

一方、現代に使用されるトップライトは、空間が狭く、周囲からの採光が満足なかたちで期待できない建物に設置されている例が多いようです光保育園のエントランスに続く廊下は、トンネルアーチの頂側部に設けた円形窓からの採光により、中廊下の暗さを解消しました。

ランダムに分散し配置した窓からの光は、落ちる位置が日の出から日の入まで刻々と変化していきます。子どもたちが園で過ごす時間の流れ、また季節の移ろいを目で見て感じられる仕掛けとなっています。

また、移動空間である廊下に光による時間の移ろいを重ね合わせることで空間に深みを与え、園名「光」にふさわしい空間となりました。
柔らかな曲線の庇、そこをくぐり抜けて玄関を開けると、円形窓から注ぐ優しい光が子どもたちを出迎えます。温かい光と穏やかな時の流れを感じながら、子どもたちに成長してほしい。そんな願いがこめられています。

工夫②(安養保育園)壁面いっぱいの本棚

絵本は、一部のみを絵で示すことで想像力を豊かにし、言葉や音へ興味を持つきっかけになったり、子どもたちの文字への興味を促したりするのに有効と言われています。

近年のスマートフォンやタブレットの普及によって、本を読む子どもが減少する時代に、安養保育園では子どもたちの日々の生活に寄り添うように絵本を置くべく、園舎の大きな壁一面に本棚を配置しました。玄関に入ってすぐの開放感あふれる明るい大空間ホワイエ(エントランスホール)に、絵本を面陳(背表紙ではなく表紙を並べる)で置けるように配置した本棚です。

この本棚には全部で250冊もの絵本を収納可能です。この壁面前の階段から廊下を毎日行ったり来たりするように、子どもたちの導線を計画しました。ふと、知らない本に自然と手を伸ばすように考えられた「仕掛け」です。園の先生と打ち合わせを重ねる中で生まれたアイディアですが、子どもに1冊の本との出会いをもたらすための、思い切った園の決断です。

色とりどりの絵本の表紙が並ぶ景色は圧巻ですが、その一方、園ではこの「仕掛け」だからこそ考えられる「ひと手間」も必要です。
本棚は後ろから出し入れが可能なように設計しましたが、高い棚に配置された本には子どもたちの手が届かず、自ら手に取ることは難しいため、園では定期的に上下の本の配置を先生方が入れ替えたり、人気のある本はもう一冊ずつ用意したりするなどの工夫が考えられます。

また、園児達の作品を飾るギャラリーとしても活用されており、本棚にとどまらない使い方が、さらに豊かな広がりをみせているそうです。さらに、ホワイエの天井には、壁面いっぱいの本棚を照らす天窓を設置しました。白い壁面と天井が外光を跳ね返して、明るい空間を演出しています。

ホワイエに続く暗くなりがちな中廊下は、切妻屋根の中心に据えトップライトを設けることにより、明るい空間を実現しました。幅の広い開放的な廊下に、太陽の光が惜しみなく差し込み、空間に広がりをもたせています。

『ホワイエ(エントランス)の圧倒的な開放感にあふれるこの吹抜けの空間は、その壁一面を、色とりどりの絵本がびっしりと埋めつくしています。そのたたずまいに初めて来園した方は、みなさんびっくりされますよ。うれしいのは、送迎にきた保護者さんがずらっと並んだ絵本の数々を見て、自分が幼少期に読んだ絵本を思い出すこともあるとか。世代を超えて、「絵本」という宝物が受け継がれてゆくのを感じます』(コメント:書籍「こどももおとなもうれしい園舎」より抜粋/園長先生)

工夫③(安養保育園)意図のあるバルコニーの設置

子どもたちは身近にあるもの、動くもの、特に乗り物が大好きです。
安養保育園では南側にある0、1、2歳の保育室から、連なったウッドデッキのテラスに出られるよう設計しました。目の前に線路があって電車が走るし、車両基地もあっていろいろな電車が集まるので、電車好きのこどもたちに大人気のスペースです。

『よちよち歩き、ねんねのこどももたくさんいますから、日々の窓からの景色を見て楽しめるようにしたかったのです』(コメント:書籍「こどももおとなもうれしい園舎」より/園長先生)バルコニーに並行して、毎日、いろいろな電車が通り過ぎてゆきます。ガタンゴトン、ガタンゴトン、規則正しく繰り返す音にさそわれて、保育室での生活から外にも興味を向けてもってほしい。そんな思いを形にした工夫です。

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