園舎老朽化に伴った建て替え事例【みなみ保育園】1
築40~50年を経過する多くの園舎が、老朽化により建て替え、もしくは大規模修繕が必要な時期を迎えている。
世界にも例のない少子高齢化の下で、これまでの制度や経済を維持向上していくためには、将来の日本を支える原動力となる子どもが健やかに育つ環境、そして子育て家庭が働きやすい環境の整備が最重要課題の1つといえる。
今回は、2019年に園舎老朽化に伴い建て替えを行った保育園を紹介する。
大分県佐伯市に所在する「みなみ保育園」(定員110名)は昭和50年(1975年)に開園された。保育園には園庭中央に大きな栴檀(せんだん)の木があり、設計段階より“木の実や落ち葉で楽しむ子どもたちの笑顔を長い間見守ってきたこのシンボルツリーを残したい”という強い要望があった。
同様にその他の樹木もできる限り残し、隣接する土地を新たに加えた敷地での建て替え計画を行った。近隣には市立図書館や住宅が立ち並び、比較的交通量の多い道路に面した立地での建設となるため、地域景観に馴染むよう平屋建ての木造園舎とした。
敷地面積から、大きなホールやランチルームをつくることが出来なかったため、玄関から保育室へ続く廊下の幅を広くする提案をした。「廊下」と聞くと、保育室やトイレに行くまでの通路という印象が強いが、幅を二間(約3.6m)に広げることで多様な活用が可能となる。
敷地の上下にはしる里道と市道をつなぐように伸びるその廊下を“きおくの道”と名付けた。そこでは子どもたちが給食配膳のお手伝いをしたり、みんなでお絵描きしたり、絵本を読んだり。奥行きのある共有空間の中に小さな居場所を点在させることで、異年齢児とも自然に交流が生まれ、子どもたちの感性や友情が育まれていく。
「廊下」は、災害など非常時の避難経路としても重要な役割をもつ。見通しのよさや、それぞれの園児が安全に移動をする上でも、ゆとりのある廊下は有効である。保育室の扉に透明な素材を採用し、一体的なつながりを感じさせることで安心感を与え、また保護者はそこを通る度わが子の、そしてこの園舎で過ごす園児たちの生活風景を覗くことができる。
建て替えにあたりやむを得ず伐採することになった既存の樹木は、保育園の大切な保育理念の額へと、そして、きおくの道で使用する子どもたちのベンチへと形を変え、いまでも園舎にやさしさとぬくもりを与えている。