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レッジョ・エミリア市を含むイタリア5都市の幼児施設と世界遺産を訪問~幼児施設編~

第11回 欧州視察 (イタリア) 250906-250914

250906 – 250914

イタリア幼児施設視察研修 2025

海外研修見学会として、今回の海外研修は、レッジョ・エミリア市を含むイタリア5都市を巡り、幼児施設の建築と教育思想を視察しました。
南部プーリア州から北部アルト・アディジェ州まで、多様な文化と風土の中で育まれた幼児教育施設と世界遺産を訪問。レッジョ・エミリア・アプローチを軸に、「空間が第三の教育者」として機能する建築の在り方を学ぶ研修となりました。

今回の記事では、見学した幼児施設の【スコーラ・マテルナ・サンドロ・ペルティーニ(幼稚園)】【ニド・マスト(保育園)】【ニド・イリデ(幼稚園)】【キンダーガーテン・フィルミアン(保育園)】【キンダーガーテン・テレンテン(幼稚園)】をご紹介いたします。

【スコーラ・マテルナ・サンドロ・ペルティーニ(幼稚園)】

Scuola Materna Sandro Pertini

定 員 :65名
所在地 :プーリア州 ビシェリエ
園舎面積:約1,310㎡
開園年月:2017年

イタリア南部のまちプーリア州ビシェリエ市にある幼稚園。豊かな土壌と太陽に恵まれ 豊潤の大地といわれ農業大国イタリアでも特に農業が盛んな地域です。
建物は周辺地域との調和、北側に隣接する公共広場、中庭、裏庭との内外のつながり、ほぼゼロエネルギーという持続可能なコンセプトのもと計画されています。

流動的で開放的、透明感を重視した計画

周辺には予算を抑えた住居が多い地域の中にある幼稚園。
各機能をもつ屋外空間と幼稚園施設の連続性により、流動的で開放的、透明感を重視した計画がなされています。その連続性が子ども、家族、先生、環境の間に相互作用を引き起こし、個々の成⻑プロセスの重要な要素となっています。

教室のインスタレーションフィルムでテーマを表現

公共広場に面したエリアは受付、エントランスホール、ランチルーム等の機能的な部分、流線形で回遊できる廊下と中庭を挟み、裏庭に面したエリアは6つの教室部分で構成されています。
各クラスには生態系をモチーフにしたテーマを設定しており、教室のインスタレーションフィルムでテーマを表現しています。

パッシブ×アクティブで実現する持続可能建築

日射を遮蔽する植栽やルーバーの採用、風通しの良い開⼝計画、⾼い断熱性能の屋根、外壁及びサッシの採用、⾬⽔再利用等のパッシブな手法と、蓄電池設備、屋上に設置した40.2Kwの太陽光発電設備、それを利用した温⽔床暖房設備等のアクティブな手法により、限りなくゼロエネルギーな建築物とし、エコで持続可能な計画としています。

【ニド・マスト(保育園)】

Nido Mast

定員数  :113名
所在地  :ボローニャ、エミリア・ロマーニャ州
開園年月 :2013年
備  考 :レッジョエミリア・アプローチ

イタリア北部にある産業のまちボローニャ州にある保育園。

包装機械製造メーカーの社長が設立した財団の保育園として開園したが、今は地域の子どもも預かる施設です。

ニド・マストは、革新的で質の高い文化体験を提供する教育センターである。その教育プロジェクトは、人間関係を重視した環境における体験学習に重点を置いています。

流動的で開放的、透明感を重視した計画

子どもたちは、遊び場である園庭から本当に多くのことを学びます。
植物や生き物の循環に触れながら、季節の移ろいを感じ、体験を通して理解を深めていきます。

畑は、四季を感じられるように子どもたち自身が手入れを行います。
育てることの喜びや責任を、日々の営みの中で自然に学んでいます。

園庭には樹齢数百年の大きな樹木があり、専門家によって丁寧に管理されています。
長い時間を生きてきた木々の存在は、子どもたちにとって安心感や自然への敬意を育む象徴的な存在となっています。

また、皆が「色鉛筆」と呼んでいるカラフルなルーバーやガラスなど、施設の空間は常に美しく保たれています。それは、「空間そのものが第三の教育者である」という考えに基づいているからです。

環境を整えることは、子どもたちの学びを整えることでもある——その思想が、日々の運営や維持管理にまで丁寧に息づいています。

透明性が育む、見える学びの環境

開放的で透明感を大切にし、ガラスを多用している施設内部は、常に清掃が行き届いています。
円柱のガラスで構成された空間は、透明感あふれるアトリエとなっています。
何をしているのかが自然と見え、見守ることができ、子どもたちの成長の過程を感じ取ることができます。

【ニド・イリデ(幼稚園)】

Nido d’Infanzia Iride

所在地 :グアスタッラ、エミリア・ロマーニャ州
開園年月 :2013年
備  考 :レッジョエミリア・アプローチ

イタリア北部にある産業のまちエミリオ・ロマーニャ州レッジョエミリア県グアスタッラにある幼稚園。2012年に発生した地震がきっかけで新たに開園しました。

設計は2025大阪・関西万博のイタリア館を設計したマリオ・クチネッラがコンペで選ばれました。

地域と呼応する、サステナブルな木造建築

建物の構造は、エコでサステナブルな木造とし、環境に配慮した計画となっています。
列柱はこの地域のイチョウ並木をイメージしており、木材には地元産のマツ材を使用しています。

光と環境を取り込む、持続可能な設計

自然光を内部空間にもたらし、内部と外部が直接つながる関係をつくるために、建物の正面はすべてガラスとすることがデザインの指針となっています。

また、パッシブな手法とアクティブな手法の両方を取り入れ、エコロジカルで持続可能な計画としています。
エアコンは設けず、水で冷やした風を空調として活用するなど、環境負荷を抑えた仕組みが採用されています。

子どもを中心に据えた空間と学び

幼稚園があって子どもがいるのではなく、子どもがいる幼稚園であると考えています。

アトリエでは実験的なアプローチを取り入れています。
子どもたちは感覚を試す遊びを好み、見ること、匂いを嗅ぐこと、触れることなどを遊びの中に自然に取り入れています。

【キンダーガーテン・フィルミアン(保育園)】

Kindergarten Firmian

定員数 :45名
所在地 :ボルツァーノ、アルト・アディジェ州
     ボルツァーノ自治県
開園年月 :2012年

ボルツァーノの新興住宅地の中心に建つ保育園。周辺には集合住宅の他、図書館、小学校、美術大学、教会等が集積する文教区域に位置しています。

この建物は、3つの用途(保育園、幼稚園、ファミリーセンター)を内包し、湾曲した重厚な壁面によって囲まれているが、内部は開放されており、各施設のための屋外園庭も設けています。

開放性とプライバシーを両立する空間構成

園内は、ガラス張りの廊下、中庭、吹き抜け等を設けることで、建物全体の一体性と開放感をもたらし、視線を交わすことで他の施設の存在を感じられるようにしています。

 一方、外部からは見えにくいように配置されたプライベートテラスなど、各施設のプライバシーを保護するための工夫が凝らされています。

中庭に面した廊下

子どもを中心に据えた運営体制

公立の社会福祉サービス協会が運営を担う保育園です。生後3か月から3歳児までを預かっており、隣接する幼稚園とも定期的に交流を行っています。

運営は、ペダゴジスタ(教育コーディネーター)と保育士が担い、保育園でありながら早い段階から教育プログラムを取り入れて実践しています。

子どもを中心に考えた運営方針のもと、子どもが自ら選んで遊ぶことを大切にし、その中で自主性を育み、成長を促しています。

【キンダーガーテン・テレンテン(幼稚園)】

Kindergarten Terenten

定員数 :75名
所在地 :テレント、アルト・アディジェ州
     ボルツァーノ自治県
園舎面積:約1,280㎡
開園年月:2011年4月

イタリア最北のまちテレント。
国境に近いこのまちは、ドイツ、イタリア、ラディンという3つの文化が重なりあう地域です。
3棟からなる外観は住宅スケールで設計され、豊かな自然と、別荘建築が建ち並ぶ周辺の環境と調和するよう配慮して設計されています。

自然光が建物全体をつなぐ設計

3つの棟の間は、ガラス屋根によりジョイントされており、自然光がしっかりと取り込まれます。
吹抜けの2層空間から、その下の階の保育室まで日光が届くよう計画されています。

自主性を育む立体的な空間構成

ゆったりとした保育空間は、二層の吹抜けによって立体的に連続しています。
子どもたちは、その日の気分や活動に合わせて過ごす場所を選ぶことができます。

子どもの自主性を重んじる園の思想が、そのまま空間構成として丁寧に表現されています。

5つの園に共通する思想と建築の在り方

今回視察した5つの園はいずれも、地域の風土や文化と深く結びつきながら、子どもを中心に据えた空間づくりが徹底されていました。

透明性のある設計、自然との連続性、持続可能な建築手法、そして「空間が第三の教育者である」という思想。
それぞれの施設は規模や地域性こそ異なりますが、建築そのものが教育理念を体現している点に共通性が見られました。

子どもが主体的に選び、感じ、関わることのできる環境を整えること。
そのために空間が果たす役割の大きさを、あらためて実感する視察となりました。

世界遺産と都市空間の視察へ

次回は、今回の研修で訪れた世界遺産や都市空間についてご紹介いたします。
歴史的建築や再開発地区の視察を通して見えてきた、イタリアにおける都市と建築の関係性についてお伝えする予定です。