• 視察・勉強会

第一回 保育園・保育業界の未来を考える勉強会

令和7年度にピークを迎えるといわれていた保育施設の利用人数が、コロナを経て、令和4年度の速報で減少に転じました。
少子化・保育園の競争時代と言われるこれからをどのように超えていくか。日頃お世話になっている皆様が未来を語り合える場を設けられたらと思い、時設計で開催いたしました。

少子化がさらに進む今、これからの幼稚園・保育園づくりに携わる皆さまとともに、教育・建築・経営の3つの視点から「園の未来」を見つめ直す時間となりました。

当日は、コンサルティング会社S・Yワークス様による講演をはじめ、「保育業界の今、これから」「社会福祉法人の新たな挑戦」など、多角的なテーマでの発表を実施。会場では活発な意見交換が行われ、参加者の皆さまからも「今後の園づくりのヒントになった」という声をいただきました。

以下では、当日の各セッションをダイジェストでご紹介します。

「NURSERY FUTURE MEETING」実施レポート
Children’s Architecture Workshop Report

【1st Program】保育業界の今、これから

(講師:S・Yワークス 執行役員 篠田大輔 氏)

少子化が進み、「幼保・認定こども園が同じフィールドで園児獲得競争をする」時代。
距離や料金といった“合理的価値”だけでは選ばれなくなりつつあり、篠田氏は「選ばれる園づくり」「付加価値の軸をどこに置くか?」「役割をどのように拡大し、地域の公共財産になるか」の条件をデータとともに示しました。

保育園の教育的付加価値化

■ 少子化と園選びの変化

幼稚園→認定こども園化  保育所→認定こども園化
いずれも不可能な自治体も出てきている、と解説。

保育園の定員未達の実態

  • 保育士の職場離れ・人員削減
  • 勤めている保育園や幼稚園が閉園になる
  • 子供が来ないので人員削減の中で働き口がなくなった

幼・こ・保の全てが園児募集を行う時代に

多様な保育の充実がモデル事業として令和5年度 内閣予算概算要求に組み込まれ、令和5年度の多様な保育の充実という文言で、無園児の一時扱い定期利用を保育園の空きスペースを利用した大学でのモデル事業として定めたということもあり、いよいよ、幼稚園、保育園、こども園の皆さんが園児獲得に本気で乗り出す時代になってきた、と解説されました。

第一回 保育園・保育業界の未来を考える勉強会 スライド01

POINT

  • 保育の教育カリキュラム化が進行している。
  • 資本力・カリキュラム開発力で勝る大手株式会社。中小規模の法人は何で付加価値を持たせるか?がポイント。
  • 上乗せ徴収をしている認定こども園は、その価格価値をどのように共感して頂くか?

2st Program】社会福祉法人の新たな挑戦

(時設計・椎名)

時設計・椎名からは、「人口減少地域における保育所の在り方」について紹介をいたしました。
保育園の新設ラッシュを越え、次の未来を見据えなければならない時代。
社会福祉法人は、どんな挑戦に踏み出しているのか?弊社へのご相談や実際に挑戦している事例をもとに、最新の動向をお伝えいたしました。

選ばれる園になるための設備環境整備

これまで国の保育政策は、待機児童問題への対応を中心に進められてきました。今後も「新子育て安心プラン」などを通じて、保育のニーズに応える取組は続けられます。

一方で、人口が減っていく社会の中でも、質の高い保育を継続していくことがこれからの大きな課題です。特に、地域全体で子育てを支えていくため、0~2歳児への支援に強みを持つ保育所や保育士の役割が、より一層重要になっていきます。

そのため、保育を必要とする家庭に対しては、安心できる質の高い保育をしっかりと提供しつつ、保育所それぞれの強みを活かしながら、他の子育て支援機関とも連携し、地域全体で多様な子育てニーズを受け止める環境づくりを進めていきます。

あわせて、保育所の体制づくりとして、保育士だけでなく子育て経験者などとも役割を分担し、関係機関と協力しながら、支援制度の充実や、働き方・評価の見直し、学びを支える研修体制の整備などを、総合的に進めていくことが大切だと考えられています。

選ばれる園になるための施設環境整備

■ 人口減少地域における保育所の在り方

● 各市区町村が各保育所等の状況を踏まえた役割分担を整理・明確化し、持続可能な保育提供体制づくりを計画的に行う
● 施設統合や規模の縮小、多機能化等の事例収集と展開
●人口減少地域で有効活用が期待される制度(公私連携型保育所、社会福祉連携推進法人等)に関する制度周知と、多機能化のための改修費支援
● 利用定員区分の適切な設定の周知と細分化等を含む公定価格の見直しの検討等

将来の施設運営

■ 多様なニーズを抱えた保護者・子どもへの支援

● 子育て負担を軽減する目的(レスパイト・リフレッシュ目的)での一時預かり事業の利用促進や施設見学・ならし預かり等を経た事前登録制度の構築
● 保育所に通所していない児童を週1~2回程度預かるモデル事業やICT等を活用した急な預かりニーズへの対応
保育所と児童発達支援との一体的な支援(インクルーシブ保育)を可能とするための規制の見直し
● 一時預かり事業を通した保護者への相談対応などの寄り添い型の支援の実施や、そのための職員研修の検討
● 医療的ケア児、障害児、外国籍の児童等対応に係る研修の検討・推進等

健康・医療・福祉のまちづくり

■ 近年の事例① 児童発達支援センター なないろハウス

なないろの個性に寄り添い自分らしく楽しく遊び学びともに生きる

 児童発達支援センター なないろハウス
児童発達支援センター なないろハウス02

■ 近年の事例② おとなたちのリソースルーム 川内すわこども園SECOND

おとなたちのリソースルーム 川内すわこども園SECOND

子どもたちの保育スペースと大人が使用する管理・休憩スペースを明確にゾーニング。「子どもも大人もワクワク、ドキドキ」をコンセプトに、子どもたちの主体性を尊重した保育と、大人がリラックスできる環境づくりを大切にしています。園舎には子どもたちの想像力を刺激する多彩な空間が用意されており、大人と子どもが一緒に成長し、学び合う園生活が展開されています。

おとなたちのリソースルーム 川内すわこども園SECOND


仕切りをなくし開放的に設計されたこの見通しの良い空間では、子ども同士、子どもと大人、大人同士がお互いの存在を意識しながら、「見る・見られる」関係から生まれる、言葉だけでなく非言語的なコミュニケーションを通じて学び合う姿が見られます。

■ 近年の事例③ ネウボラ~切れ目のない子育て支援~ 渋谷区子育てネウボラ

渋谷区子育てネウボラ

施設整備補助金を活用した施設整備

少子化が進む中にあっても、地域で安心して子どもを育てられる環境づくりは、これからの社会にとって欠かせない取組です。国ではこれまで、待機児童対策を中心に保育の受け皿整備を進めてきましたが、近年は「新子育て安心プラン」のもと、量の確保に加えて、質の高い保育環境の整備へと重点が移っています。

こうした方針を受け、施設整備補助金を活用した保育施設の整備は、地域のニーズに応じた保育提供体制を構築するための有効な手段となっています。新設や増改築、老朽化への対応だけでなく、多機能化や地域子育て支援を見据えた空間整備を行うことで、保育所は「預かる場」から「地域で子育てを支える拠点」へと役割を広げていくことができます。

特に、0~2歳児への支援や未就園児家庭への関わり、保護者相談への対応など、今後求められる機能を見据えた施設整備は、保育の質の向上と持続可能な運営の両立につながります。施設整備補助金を活用することで、事業者の負担を抑えながら、地域の実情に合った保育環境の整備が可能となります。

国の整備計画の流れを踏まえ、将来を見据えた施設づくりを進めていくことは、子どもたちの育ちを支えるだけでなく、保育士が安心して働き続けられる環境づくりにもつながります。施設整備補助金を活用した計画的な整備は、これからの地域保育を支える大切な一歩です。

■ 整備計画の推移・概要

整備計画の推移・概要

3st Program】情報交換会

ご参加くださった皆様同士の交流・情報交換を兼ねて、トークセッションを行いました。
地域により、取り巻く環境や課題感は様々。他地域の話を生で聞くことは、きっと法人経営のヒントになると思います。

まとめ

今回のNURSERY FUTURE MEETINGでは、
「保育業界の今、これから」×「福祉法人の新たな挑戦」×「選ばれる園になるための施設環境整備」
という、園づくりの根幹を成すテーマを多角的に学ぶ時間となりました。

幼稚園・保育園・認定こども園の違いは、保護者にとって分かりにくくなっており、「どこに通わせるかを選ぶ時代」へと大きく変化しています。共働き家庭の増加により、かつての幼稚園・保育園の住み分けはなくなり、すべての園が同じフィールドで園児募集を行う状況です。

こうした中、企業主導型保育の広がりを背景に、利便性やサービスを強化する園が増えています。惣菜販売、クリーニング代行、買い物や食事ができる仕組みなど、保護者の生活を支える付加価値づくりが進んでおり、今後もこうした動きは拡大すると考えられます。

現在は、保育に教育的要素を取り入れたカリキュラム化も進み、園ごとに「どこに付加価値の軸を置くのか」が強く問われる時代です。特に認定こども園では、上乗せ徴収に見合う価値を明確に示せなければ、園児確保が難しくなってきていることが、近年の大きな傾向として表れています。

今後もTHINKでは、学びと実践をつなぐ場として、園づくりに役立つ情報を発信していきます。