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【対談】<建築×造園>の連携で生みだすこどもの心の「原風景」4

対談者紹介

西武造園株式会社 専務取締役 大嶋聡氏
 西武緑化管理(株)代表取締役を務め、現在は西武造園(株)専務取締役。
株式会社時設計 代表取締役 菊地宏行氏

建築と造園のコラボレーションで拡がる「庭=空間」の形

菊地 2015年から西武緑化管理さんと「こどもの秘密の隠れ家」をテーマにした作品をつくり、日比谷公園ガーデニングショーに出展しています。2017年には西武造園さんとも組み、3社共同で「鈴なりの庭」という作品をつくりました。大きな1本の木から着想しています。
園庭の真ん中で遊ぶこどもはなかなかいません。端だったり、なにかの傍だったりにいたがるものです。動物としての習性というのか、身を守ろうとする本能なのかもしれませんね。 1本の木の周りには、自然と空間ができます。2本あれば、その空間がますます拡がる。そのような、木を中心にできる空間を囲ったら、さらにおもしろい空間ができるのでは、と考えたのです。

大嶋 日比谷公園ガーデニングショーには、私たちもこれまで造園の専門家として作品を出展しつづけてきましたが、時股計さんとのプロジェクトでは、<造園×建築>という、2つがコラボレーションすることで生まれる、新しい庭の形をつくりあげることができました。審査員の方からは、「『2×3m』」という限られた空間に、こんなにも夢を詰め込むことができるのか」という、うれしい評価をいただきました。

菊地 それには、「建築」という目線だからこその強みもあります。今年の「鈴なりの庭」においては、高さ7メートルのヒノキのてっぺんに球状の小屋を設置しました。開催期間中に台風が二度到来するという悪条件のなかでしたが、構造計算をしっかり行なったうえでつくっていますので、倒れるなんてことはまったく心配には及びませんでしたが。

大嶋 1本の大きな木を活かすという視点は、時設計さんの園舎設計にもよく見られますね。リーチェル幼稚園さんでは、エントランスにスギとヒノキの木を設置してネットを張り、こどもたちが遊べる空間を創出しましたが、園のシンボル的存在になっています。

こどもたちの「原風景」でありながら、みんなに愛される園庭を

菊地 「Kids Jam」は、園庭を重視した幼稚園や保育園を少しでも増やしたいという思いからスタートしたプロジェクトです。国としても「園庭に自然を」という考えに着目しはじめていて、文部科学省と厚生労働省が発行する「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」のガイドラインには、「自然と触れ合える園庭にすること」と記載があります。

大嶋 造園空間の計画・設計においては、地域性、土地の歴史性や文化などが大変重要となります。その地域の特性を活かした植栽計画を行なうのは、地域の良さを再認識するきっかけにもなりますね。いずれにせよ、園庭は画一的でない、「自然発生的なデザイン」が必要で、一つとして同じ形の園庭はありません。そしてそれは、時を経て進化し、成長し続けてゆくものです。

菊地 こどもを取り巻く環境は、大きく変わりました。保育園とこども園は増加しつづけ、なかには、深夜2時まで開いている保育園もあります。園で過ごす時間が長ければ長いほど、園庭の果たす意義は大きいことを実感しています。こどもが自由に、かつ安全に遊べる空間というのは、なかなかありませんから。

大嶋 狭小地や建物内に園を設置するというケースも増えています。企業主導型保育園も増えるなかで、園庭という空間をどう確保してゆくべきかという時代の変化を受けて、屋上や室内の環境整備、壁面縁化の導入など、より特殊な縁化技術が要求されるようになりました。

菊地 私が考えているのは、「園といっしょに園庭を育てる」という視点です。園庭には完成形はなく、植物の生長やこどもたちの使い方によっても、変化を重ねて形が変わってゆくものです。そのうえでは、保護者の方も巻き込めればいいなと考えています。一緒に雑草を抜いたりするだけでもいいし、「みんなでつくりあげる」という意識があれば、園庭に対して愛着がわき、より愛される存在になる。

大嶋 「園庭のみどり」が、園舎という枠を超えて、「地域の緑」としてランドマ—クになってくれればなおうれしいですね。こどもたちそれぞれの「原風景」でありながら、地域のみんなが寄り添い、集えるような場所であればいいなと思います。

菊地 そのためには、これからもお互いの強みを活かして、新しい園庭をつくってゆきたいですね。

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