【対談】こどもの「夢」を育む美しい園舎を求めて2
対談者紹介
株式会社JSD 代表 徐光氏
1995年に構造設計事務所(株)ジェーエスディーを設立し、代表に就任
株式会社時設計 代表取締役 菊地宏行氏
職人の「技」と「やりがい」を引き出す、新しい技術を活かす
菊地 徐さんはプロジェクトが始まると、現場所長はもとより、鉄筋、型枠、鳶、さらには電気、設備など、建築に関わる各分野の職長を集めて、設計説明会を毎回この事務所で開きます。そこで新しい技術をわかりやすく説明し、携わる一人ひとりの疑問や不安を解消してくれる。これを、すべての現場で欠かさず行なってらっしゃいますね。それによって、設計と現場とが大きな目標を共有できるので、自然と一体感が生まれます。徐さんは、人を魅了し心を掴むことに本当に長けているなと、いつも感心しています。
徐 これまで経験していない新しい技術に臨むケースが多いので、現場の皆さんもやりがいを感じ、いきいきと仕事に向かってくれます。ある親方は、ほかの仕事は弟子にやらせることが多いけれど、「自分の腕のみせどころだから、この仕事だけは自分でやりたい」と、積極的に関わってくださいました。日本の職人さんは、みなさんいい技をもっている。その技を引き出せたら、いい設計になります。
菊地 そうですね。たとえば、みのる幼稚園さん(静岡県)の場合には、屋根も壁面も曲面(R)を使っていますから、つくる側としては本当に大変だったと思います。けれど、職人の方々が、「この仕事をしっかりやり遂げる」という強い意志をもって、最後までハイレベルな仕事をしてくださった。数々の賞を受賞した建築でしたが、それは現場の皆さんの努力の賜物であり、勲章でもありますよね。
園舎の「美しさ」がこどもの生きる「未来」を育む
徐 園舎設計においては、「美しさ」を常に意識しています。とくに構造空間の美しさには、強いこだわりをもっています。内観も外観も美しく、人に感動を与えるようなものにしたい。たとえば、みどり認定こども園さん(静岡)の場合もそうです。入口には、毎日送迎のバスが着くので、「シンボリックな庇をつくりたい」という要望がありました。この園には、オーバルホールという楕円の大吹抜けがあります。それと呼応するように庇も楕円形にして、それを直径100ミリの無垢の鉄骨柱で支えることにしました。できあがってみると、大きなコンクリートの構造物が宙に浮いているようで、みなさん驚いていましたね。見たこともないような庇が、こどもたちの発想を刺激すればいいなと思っています。
美しいデザインを設計するには、まずどんな園舎を建てたいかをよく聞いて、現場を見て、時設計さんと一緒にアイディアを練ります。
リーチェル幼稚園さんの場合は、実際に現地に行ってみると、富士山を背景に建設予定地の横を清流が流れていた。その他地域独特の風景がありました。そこからインスピレーションを得て、波のような大屋根の発想が生まれ、時設計さんとの創造的議論の末に、波のような雲のような形の屋根に辿りつきました。
「ほんもの」に触れて学ぶ園舎空間【リーチェル幼稚園】
菊地 エントランスの部分に、大屋根の波型が弧を描いて一気に着地するダイナミックなデザインで、みなさんは足を止めて見上げています。こどもの施設にはちょっと見えない外観ですよね。
今、時代の流れとして、デザインにこだわる先生方が増えているのも事実。園服もバスのデザインも、すごく洗練されてきています。園舎にも、高いデザイン性が求められていることを感じます。
徐 同時に園舎設計においては、園舎としてのデザインだけを考えるのではなく、街並みにとってもプラスになるようなデザインであることも重要です。街で際立つというよりも、街の景観をリードしていくような美しい園舎をつくっていきたい。僕らは生きていないだろうけど、50年後、100年後の街が、園舎を中心に今以上に美しくなっていたら、うれしいですね。
【対談】こどもの「夢」を育む美しい園舎を求めて3に続く