【コラム】「時設計×ディック・ブルーナ」流園舎設計4
ブルーナのデザインをとりいれてこどもの感性を豊かに育む
ブルーナのデザインを園舎設計にとりいれるうえで大切なのは、園舎全体にそのデザインを採用するのではなく、あくまで内装や外装の一部にポイントとしてとりいれること。園舎とは、まずそれぞれの「想い」や「保育理念」があってその形が決まるものであり、地域性や時代背景によってもあるべき形は異なります。
たとえば、3、4、5歳児の保育室では、こどもたちの工作作品を壁面に飾ることが多いので、あまり保育室内部にブルーナとわかるデザインを採用していません。しかし、外部からの影響を大きく受けて感性を養う時期にある0、1、2歳児の保育室や、玄関周りやトイレなどの共用スペースに部分的に採用することで、鋭敏なこどもの感受性を新たな方向から刺激することができると考えています。
園舎設計において、装飾やデザインはもちろん必要ですが、こどもの感性を育み、こどもがこどもらしくいられる空間においては、どのようなデザインが求められているのか。時設計は、“Let kids be kids”―「こどもが、こどもらしくいられるように」という願いを込めて、つくり手がデザインの「意味」を限定せずに、受け手によってさまざまな見方や解釈ができるデザインをめざしています。
たとえば、しらさぎ保育園のランチルームの白い壁面には、黒い線が床から天井へ、2階部分にむかって凹凸を描きながら伸びています。その形状に深い意味はありませんが、この線を見たこどもは、「あれ?」「なんだろう?」とその線の意味を考えはじめる。「意味がないこと」が、その子だけの「意味」を生みだすのです。その意味はこどもそれぞれで、「正解」はありません。
ブルーナのデザイン・コンセプトが、「園舎」のありかたを決めるカギとなる
園舎のありかたは、時が経つにつれて変わるものであり、「完成形」はありません。ブルーナの世界は、園舎設計においてもさまざまなことを教えてくれます。この先どう形づくられていくか、どう彩られてゆくのか……こどもたちの未来は「白紙」の状態です。だからこそ、ブルーナのデザイン・コンセプトに得るところは大きく、彼のデザインを取り入れることで、園舎のありかたはさらに拡がり、こどもたちの感性をより豊かに育むための一つの選択肢になると考えています。