【対談】<建築×造園>の連携で生みだすこどもの心の「原風景」3
対談者紹介
西武造園株式会社 専務取締役 大嶋聡氏
西武緑化管理(株)代表取締役を務め、現在は西武造園(株)専務取締役。
株式会社時設計 代表取締役 菊地宏行氏
園庭でつながる「生命」が新しい空間を生み出す
菊地 私たちはここ近年、ビオトープに力を入れていますが、その多様さや、時には雑多さ、さらには成長や遷移してゆくありさまにおもしろさを感じます。実際に、西武造園さんとは一種に古和釜幼稚園さんのビオトープをつくりましたが、さまざまな命が生まれて共存する空間で、こどもたちが「虫がいる!」「鳥があそびにきたね!」などと、自発的にいろいろな楽しみを掴みとっているのが印象的でした。
大嶋 古和釜幼稚園さんの場合は、60種類以上の植物を植えましたが、すべて在来種に限定しました。環境省が「特定外来種」を定めていますが、いずれも強靭で放置するとどんどん拡がってしまうので、特に使用を避けています。ここのビオトープ空間では、特に日本の「原風景」を創出したかったのです。
菊地 完成してもうすぐ1年たちますが、現在の古和釜ビオトープを見ると、どれが雑草で、どれが私たちの植えたものなのかわからないですよ(笑)。ただ、この雑草というのもおもしろいのです。私はビオトープ管理士の資格も取得しましたが、雑草と野草の違いはどこにあるのか学びました。明治時代、鎖国の解禁にともなって外来種が一気に流入しましたが、そのなかで強い力をもって自生できるものを雑草と呼ぶのでしょう。しかし、それも野草の一つであり風景の一つになるし、雑草もまた美しく、生態系の一つとも言えます。
大嶋 都市空間においては、きちんと計画・整備された緑に溢れていますが、すべてが「身近」とは言えません。保育園や幼稚園における「みどり」は、ふれあえる「身近さ」が重要です。こどもたちは葉や幹を触り、花の美しさを見、においを嗅ぎ、葉音を聞き……。日本は四季のある国ですから、こどもたちは花開き、実が成り、落葉するさまなどから季節の移り変わりを肌で感じることができます。そのように日常的に緑と触れ合う中で、自ずと五感が研ぎ澄まされてゆきます。
菊地 ビオトープといえば、「水辺がある環境」と思う人は多いのですが、その本来の定義は、「人の手を入れなくとも生態系が循環していること」です。土があり、生きものが棲息できる環境があればいい。草を植えればミミズやコオロギ、トンボやバッタなどの虫が集まり、それを餌とする小鳥がやってくる。実のなる樹木を植えたり、池にメダカや小魚を入れたりすれば、それを狙って大型のサギなんかも飛来する。食物連鎖があり命が循環してゆく、それが生態系というものです。もちろんそれを股計で生みだすためには、植栽上のバランスが非常に必要です。ただ、私たちは園舎設計のプロですが、植栽のノウハウはありませんでしたから。
大嶋 庭を維持するという観点でも専門家の存在は不可欠です。造園の空間づくりは、常に 5年から10年後、そのさらに先を想定して設計しています。
菊地 同時に、「そこにあった樹木を活かす」という視点もまた重要です。「Kids Jam」でいえば、古里保育園の園庭は、もともとあったスギの樹に大きなハンモックを設置して、それを中心に「ぼうけんの森」というテ—マで、こどもたちの「遊び場」を設計しました。
大木が一つあると、こどもは自然とそこに集まって遊ぶものです。その木が、みんなの「よりどころ」になる。そのような自然発生的にできる空間を大事にしたいなと考えています。
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